大分県の高塚山(黒岳)へ、今水登山口から風穴を経て往復しました。登山難易度は上級者向け。見どころは天然林や風穴、苔むした岩場ですが、急登やロープ場では注意が必要です。登山口へのアクセス、山頂からの景色、雨天時の危険を、実際の登山ルートとともに紹介します。
高塚山(黒岳)の概要と歴史・文化
原生林に包まれた標高1,587メートルの峰
黒岳は、くじゅう連山の東端に位置する山塊で、その最高峰が標高1,587メートルの高塚山です。九州百名山の一座として知られ、なだらかな草原が印象的なくじゅう連山の中では珍しく、深い天然林に覆われています。
黒岳の名は、鬱蒼と茂る木々によって遠くから黒色や紫色に見えたことに由来するとされています。麓の男池湧水群は名水百選、黒岳は「21世紀に残したい日本の自然100選」にも選ばれました。
かつての山岳信仰を断定できる資料は限られますが、現在も山開きでは登山者の安全が祈願されます。自然への畏敬を受け継ぐ地域文化が、今もこの山を守っています。

深い森の静けさには、人が自然へ寄せてきた畏れと祈りが息づいている。
登山前の想い――雨予報でも会いたかった山
2025年6月22日。「天気予報は雨……でも、行きたかった」。その思いに背中を押され、今水登山口へ向かいました。
ところが途中で道を誤り、ガラン台方面のゲートへ。1.4キロほど引き返して初めて、倒れた案内板と見落としていた赤字の注意書きに気づきました。期待に心が急ぎ、周囲を見る余裕を失っていたのです。
ようやく今水登山口駐車場へ着くと、車はほかに一台もありません。人の気配がない静けさに、不安が胸をよぎりました。それでも雨はまだ降っていない。装備を確かめ、深い森へ一歩を踏み出しました。

行きたい気持ちが強い日ほど、立ち止まって確かめることが大切だった。
登山開始――天然林との静かな対話
歩き始めて間もなく、最初の分岐でも進路を誤りました。黒土の急斜面を四つん這いで登り、地図を確認して正規ルートへ修正します。
崖沿いの細い道では、谷側へ吸い込まれそうな緊張を覚えました。倒木が道をふさぎ、ゴロゴロした石の間を縫うたび、足元から湿った土の匂いが立ち上ります。
杉林を抜けると、風穴へ続くゴロタ場へ。石の隙間を抜ける冷気が汗ばんだ肌を冷やし、頭上では枝葉がざわざわと鳴っていました。
やがて雨粒が葉をたたき始めます。風は横から吹きつけ、霧が森の輪郭を白く消していきました。黒岳の優しさと厳しさが、同時に迫ってくるようでした。

風穴から届く冷気が、浮ついた心を静かに引き締めた。
登山ルートの特徴と注意点
雨天時は難易度が大きく上がる
今回の登山ルートは、今水登山口から風穴を経て高塚山へ至る往復コースです。天然林を満喫できる一方、倒木、崖沿いの道、ガレ場、急斜面、岩場、ロープ場が続きます。
乾燥時でも登山難易度は中級者以上。雨で岩や黒土が濡れると、上級者向けと考えるべきです。鎖場や大きな渡渉はありませんでしたが、ロープだけに体重を預けず、足場を確かめながら三点支持で進む必要があります。作業用手袋も役立ちます。
登山口までの林道やガラン台方面との分岐は、暗い時間帯や霧の中では見落としやすいため、オフライン地図とGPSを準備しましょう。単独登山では家族などへ計画を伝え、予想以上に天候が悪化した場合は、山頂にこだわらず引き返す判断が必要です。
なお、雷鳴が聞こえた時点で稜線や山頂を目指すのは危険です。来た道が安全とは限らないため、状況に応じて速やかに低い場所へ移動し、孤立した高木や岩壁、水の流れる場所を避けなければなりません。

山頂へ進む勇気より、引き返す判断が命を守る日もある。
雷鳴の山頂で感じたこと
終盤はツツジの枝が重なる急登でした。雨を含んだ葉が頬や腕に触れ、そのたび冷たい雫が服の中へ入り込みます。濡れた岩とロープ場を越え、ようやく高塚山の山頂へ到着しました。
しかし、待っていたのは絶景ではなく白い霧。そして空の奥から、低い雷鳴が響きました。
達成感に浸る余裕はありません。山頂での滞在を切り上げ、すぐに下山を決めました。ここまで来た喜びより、もっと早く天候悪化を判断すべきだったという反省が胸に残ります。
山頂に立つことだけが挑戦ではありません。自然の変化を受け止め、自分の執着を手放すことも登山者に求められる強さなのだと、雷の音に教えられました。

何も見えない山頂で、見失ってはいけないものが見えた。
下山で気づいたこと――無事に戻るまでが登山
濡れた岩場は、登りより下りの方が怖く感じられました。一歩ごとに足の置き場を確かめ、ロープを補助にしながら身体をゆっくり下ろします。
枝を打つ雨音、霧の中で揺れる葉、靴の下で動く石。疲れで集中力が薄れそうになるたび、「無事に帰ることが今日の山頂だ」と自分に言い聞かせました。
登山口へ戻ったとき、服も装備もずぶ濡れでした。それでも車の扉に触れた瞬間、身体の奥から安堵が広がりました。道迷いも、悪天候も、単なる思い出として美化してはいけない。次の安全へつなげてこそ、意味のある経験になるのだと思います。

登頂の喜びより深く、帰れたことへの感謝が胸に残った。
まとめ――黒岳は経験と判断力が必要な深山
高塚山(黒岳)は、原生林の静けさを味わいたい中級者、変化に富んだ急登へ挑みたい上級者、観光地化されていない深い山を歩きたい人におすすめです。
初心者だけでの登山には向きません。特に雨天時は滑落、道迷い、低体温症、落雷の危険が増すため、延期を含めた慎重な判断が必要です。ベストシーズンは新緑の春と紅葉の秋。好天の日を選び、時間と体力に余裕を持って歩きたい山です。
次は晴れた日に再訪し、苔むす森の色をゆっくり眺め、高塚山から広がる本来の絶景に会いたいと思います。
あの日、霧と雷の中で学んだ慎重さを胸に、私はいつか、青空の黒岳へ帰ってくるでしょう。



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