大分県の九重山へ、牧ノ戸峠登山口から沓掛山、御池、天狗ヶ城、中岳、久住山を巡る登山ルートを歩きました。登山難易度は中級者向け。見どころはミヤマキリシマと火山景観、山頂からの景色です。車でのアクセスや混雑時の注意点も含め、初夏の絶景に心を奪われた一日を紹介します。
九重山の概要と歴史・文化
九州本土最高峰を抱く火山群
九重山は一つの山ではなく、久住山や中岳、天狗ヶ城、大船山など、標高1,700メートル級の峰々からなる火山群の総称です。日本百名山・九州百名山に数えられ、阿蘇くじゅう国立公園を代表する山域として親しまれています。
最高峰の中岳は標高1,791メートルで、九州本土最高峰。久住山は標高1,786.5メートルあり、美しく堂々とした姿から連山を象徴する峰となっています。
「九重」と「久住」は、地域名と山名の違いなどから現在も使い分けられています。その二つを包み込むように「くじゅう連山」と平仮名で表すことも多く、山と暮らしてきた地域の歴史が名前にも残されています。

幾つもの峰が寄り添い、九州の空を静かに支えている。
登山前の想い――夜明け前から始まった挑戦
2025年6月7日、まだ連山が夜明けの色を帯びる午前5時30分。標高約1,330メートルの牧ノ戸峠駐車場は、すでに満車でした。
目当ては、山肌を紅紫色に染めるミヤマキリシマ。期待で胸が高鳴る一方、沓掛山から中岳、久住山まで巡る長い道のりを考えると、少し不安もありました。
登山口の注意事項を確認し、急がず最後まで歩き切ることを心に決めます。今回のテーマは「花の稜線をたどり、歩き続ける喜びを知る」。朝の冷気を吸い込むと、眠っていた身体に静かに力が満ちてきました。

夜明けの駐車場で、長い一日への期待が動き始めた。
登山開始――花と風に導かれて
舗装された急坂を登ると、ほどなく展望台へ到着します。振り返れば、朝日に照らされた飯田高原が眼下へ広がり、その先には幾重もの山並みが浮かんでいました。
階段を上がって沓掛山へ進むと、岩の間や斜面にミヤマキリシマが現れます。風に揺れる紅紫色の花、朝露を含んだ草の匂い、砂礫を踏む乾いた音。柔らかな光が花びらを透かし、登山道まで明るく染めていました。
やがて視界が開け、火山特有の荒々しい山肌と穏やかな花の群落が同時に現れます。硫黄山方面から立ち上る白い噴気は、この大地が今も生きていることを伝えていました。

荒々しい火山の大地に、花は優しい色を置いていた。
登山ルートの特徴と注意点
長い縦走路では体力と時間に余裕を
今回の登山ルートは、牧ノ戸峠から沓掛山、西千里浜、久住分かれを経て御池へ進み、天狗ヶ城、中岳、池ノ小屋避難小屋、久住山を巡って戻るコースです。
鎖場や本格的なロープ場、渡渉はありませんが、沓掛山周辺の岩場、久住分かれ付近のガレ場、各山頂への急登があります。浮き石で足を取られやすいため、特に下山時は歩幅を小さくすると安心です。
複数の分岐があり、濃霧時には方向を見失いやすくなります。初心者は久住山のみの往復から始め、今回のような複数ピークを巡る登山は、体力のある中級者以上におすすめです。上級者でも夏の暑さ、強風、火山情報を軽視してはいけません。
牧ノ戸峠へは、やまなみハイウェイを利用する車でのアクセスが一般的です。花の時期の週末は夜明け前から混雑するため、無理な路上駐車を避け、事前に駐車計画を立てましょう。

遠い頂ほど、焦らない一歩が確かな近道になる。
山頂で感じたこと――九州本土最高峰へ
御池の青い水面を眺めてから天狗ヶ城へ登ると、360度の展望が待っていました。初夏らしく虫が多いため短い休憩にとどめ、次はいよいよ中岳へ向かいます。
標高1,791メートルの山頂に立つと、坊ガツル湿原、大船山、三俣山、歩いてきた峰々が一つの大きな風景となって広がりました。遠くに阿蘇五岳も浮かび、空と大地の境界がほどけていくようです。
九州本土最高峰へ着いた達成感はもちろんありました。しかし胸に湧いたのは、自分一人の力だけで登ったのではないという感謝でした。道を整える人、挨拶を交わす登山者、足元で咲く花。そのすべてが、疲れた心を山頂まで運んでくれたのです。

最高峰に立って見えたのは、支えてくれた無数の存在だった。
久住山からの下山で気づいたこと
池ノ小屋避難小屋を経て最後の久住山へ。登り返しで脚は重くなっていましたが、近づく山頂標識を見るたびに、もうひと踏ん張りと自分を励ましました。
山頂には花を目当てに訪れた登山者が次々と到着し、疲れの奥から笑顔がこぼれていました。眼前に広がる中岳や星生山を眺めると、歩いてきた距離が一つの物語として胸に戻ってきます。
帰路では、午後の光を受けたミヤマキリシマが朝とは違う色に見えました。疲労で足取りはゆっくり。それでも、花を傷つけないよう登山道の中央を歩き、すれ違う人と道を譲り合います。
無事に牧ノ戸峠へ戻った瞬間、安堵とともに「今日も歩き切れた」という静かな自信が残りました。

帰り道の花は、頑張った心にそっと微笑んでいた。
まとめ――九重山は花と火山の物語を歩く山
九重山は、初夏のミヤマキリシマを楽しみたい人、火山が生んだ雄大な絶景を歩きたい人、九州本土最高峰へ挑戦したい人におすすめです。
今回の周回に近い登山難易度は中級程度。長時間歩行となるため、初心者は久住山または中岳に目的地を絞り、経験者と同行すると安心です。ベストシーズンはミヤマキリシマの5月下旬から6月中旬、新緑の初夏、紅葉が美しい秋。入山前には天気予報と気象庁の火山情報を必ず確認しましょう。
九重山には、同じ空、同じ道でも季節ごとに違う物語があります。次は秋風の吹く稜線を歩き、紅葉に包まれた中岳と久住山へ再び会いに行きたいと思います。
あの日、花染める稜線の先で得た小さな自信は、これからも新しい山へ向かう私の背中を押してくれるでしょう。



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