【三俣山・本峰・大分県/熊本県近郊】霧と雨の向こうで見つけた、静けさという絶景

登山

くじゅう連山の三俣山へ、大曲駐車場から諏蛾守越、西峰、Ⅳ峰を経て本峰を往復する登山ルートで挑みました。登山難易度は中級程度。見どころは荒々しい火山地形と複数の峰です。登山口へのアクセスや雨天時の注意点、霧に閉ざされた山頂からの景色と心の変化を紹介します。

三俣山の概要と歴史・文化

三峰に見えて、実は五つの表情を持つ山

三俣山は大分県竹田市と九重町にまたがる、標高1,744.7メートルの山です。熊本県にも近いくじゅう連山の一座で、九州百名山に数えられます。日本百名山では、三俣山を含む山域が「九重山」として選定されています。

どの方角から見ても三つの峰に見えることが山名の由来とされていますが、実際には本峰、西峰、Ⅳ峰、南峰、北峰という複数のピークを持ちます。北峰側には「大鍋」「小鍋」と呼ばれる火口跡が残り、火山が形づくった山であることを実感できます。

春から初夏はミヤマキリシマ、秋には鮮やかな紅葉が山肌を彩ります。三俣山は、火山の歴史と豊かな植生が重なる阿蘇くじゅう国立公園の名峰です。

三つに見える峰の奥に、幾つもの山の表情が隠れている。

登山前の想い――霧雨の大曲登山口

2025年9月14日。大曲駐車場に着くと、細かな霧雨が辺りを濡らしていました。

晴れていれば、連なる峰を眺めながら歩けるコースです。しかし、この日は山の姿さえ白い霧の奥。期待していた絶景に会えるだろうかという思いと、雨で滑る登山道への不安が胸の中で交差します。

大曲登山口に掲げられた注意事項を読み、雨具や地図を再確認しました。登山道に残された案内は、道を整備してきた人々や、同じ山を歩いた先人からの大切な声です。

ひと呼吸して、霧の向こうへ一歩を踏み出しました。

白い登山口の先へ、期待と不安を一緒に連れていった。

登山開始――雨音と砂防ダムの道

序盤は比較的なだらかな道ですが、雨を含んだ黒い土は柔らかく、靴底が滑ります。草の青い匂いが湿った空気に混じり、雨粒がフードを細かくたたいていました。

やがて砂防施設が現れ、梯子を慎重に上り下りします。金属の踏み板は濡れると滑りやすいため、一段ずつ足裏を確かめました。

舗装された旧鉱山道路へ出ると、土砂が崩れた跡と「落石注意・休憩禁止」の表示が目に入ります。ここは立ち止まらず、斜面側から落ちてくる石にも注意して通過しました。

風が霧を押し流しても、見えるのは次の数十メートルだけ。視界を奪われたぶん、雨音と風のうなり、自分の呼吸が鮮明に聞こえてきます。

景色を失った道で、雨音が私の歩幅を整えてくれた。

登山ルートの特徴と注意点

諏蛾守越までのガレ場と複数の踏み跡

砂防ダム付近を越え、岩が積み重なるガレ場を登ると、諏蛾守越に到着します。かつて周辺の硫黄山では硫黄採掘が行われ、1972年まで続いていました。鉱山道路の跡は、火山と人の営みが交差した歴史を今に伝えています。[環境省「阿蘇くじゅう国立公園・三俣山コース」](https://www.env.go.jp/nature/nationalparks/list/aso-kuju/course/06/)

諏蛾守越から西峰へは、岩礫の急登です。踏み跡が複数に分かれ、あみだくじのように見える場所もありますが、好きな道を選んでよいわけではありません。植生保護と道迷い防止のため、目印と地図を確認して正規ルートを進みます。

大きな鎖場や渡渉はありませんが、雨天時は梯子、濡れた岩、ザレ場、強風に注意。晴天時の登山難易度は中級者向けで、初心者は経験者との同行がおすすめです。上級者でも濃霧時は現在地をこまめに確認してください。

分かれた踏み跡の前で、地図を見る時間が心の余裕をつくった。

西峰・Ⅳ峰から霧の本峰へ

諏蛾守越から急斜面を登り、まずは西峰へ。稜線へ出ると風が強まり、霧雨が横から頬を打ちました。立ち止まると身体が冷えるため、歩調を保って先へ進みます。

Ⅳ峰を経て本峰へ向かう道でも、周囲は白一色。山頂同士の位置関係が見えず、近いはずの峰が霧の中から突然現れました。

そして三俣山本峰へ到着。眼下に広がるはずの大鍋・小鍋や、坊ガツル、大船山、くじゅう連山の絶景は見えません。それでも「ここが三俣山の中心だ」と思った瞬間、静かな達成感が胸を満たしました。

山は眺望を見せてくれなくても、歩いてきた時間までは奪いません。景色の代わりに、自分の一歩を信じる強さを受け取ったようでした。

霧の本峰で見えたのは、ここまで諦めなかった自分だった。

下山で気づいたこと――諏蛾守越の冷たい風

山頂では長居をせず、来た道を引き返しました。濡れた岩場は下りの方が滑りやすく、重心を低くして足場を一つずつ選びます。

再び諏蛾守越に着き、短い休憩を取りました。かつて周辺には硫黄鉱山があり、今も火山の活動が続く場所です。「静かに見えること」と「火山が眠っていること」は同じではありません。入山前には気象情報と併せて、火山情報や通行規制の確認が欠かせません。

霧の峠で深呼吸すると、雨に洗われた冷たい空気が肺へ染みわたり、疲れた身体を静かに整えてくれました。今日も無事に下れる。その感謝が、冷えた胸の奥に温かく残ります。

冷たい峠の風が、帰る道の尊さをそっと教えてくれた。

まとめ――三俣山は季節ごとに再訪したい名峰

三俣山は、火山地形を歩きたい人、複数のピークを巡りたい中級者、ミヤマキリシマや紅葉を楽しみたい人におすすめです。

大曲登山口から本峰までの登山難易度は中級程度。梯子、ガレ場、岩礫の急登があり、初心者は晴天で風の弱い日を選び、経験者と歩くと安心です。ベストシーズンはミヤマキリシマが咲く5月下旬から6月、紅葉が深まる10月。冬は積雪と凍結により上級者向けとなります。

大曲駐車場は台数が限られ、路上駐車は危険です。アクセス道路、登山道、火山規制の最新情報を事前に確認しましょう。

次は青空の下で本峰に立ち、霧の向こうに隠れていた大鍋・小鍋と、くじゅうの峰々をゆっくり眺めたいと思います。

見えなかった絶景が、また登る日の約束になった。

あの日、三俣山が霧の中に隠した景色を、私は雨音とともに、きっと何年経っても思い出すでしょう。

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